本作は、人気シリーズ「十二国記」の三作目です。
ファンタジーな世界観ながら、そこに生きる人々の人生は、相変わらず痛いほどにリアル。
十二国の世界は、中華風ファンタジーとでもいうべきもの。
妖魔や仙人が存在し、生き物は木の実から生まれる。
そんな不思議な世界観だけれど、そこには理不尽な差別や偏見があり、身分差があり、苦悩もある。私たちが生きるこの現実と、まったく変わりません。
今回中心となるのは、名君と名高い雁(えん)国の主従。王である尚隆(しょうりゅう)と、彼の麒麟である六太です。
これは、尚隆が即位してから、まだ二十年頃の話。
謀反の企てがあり、誘拐されてしまった六太。
彼が死ねば、王である尚隆も死に、また戦乱が始まる。
そうさせない為に、自分に出来ることを精一杯やろうとする官吏や、一人一人の市民達。
謀反を起こした斡由(あつゆ)は当初、立派な人物と思われましたが……。
対照的に、普段は能天気でいい加減に振舞っているのに、いざという時は思慮深さ・器の大きさを見せる尚隆が印象的です。
真面目な顔を見せないのは、彼なりの処世術なのかも……?
幼い頃、戦乱で親に捨てられた六太と、同じく戦で故郷を失った尚隆。
「国=民」と思い、自分は国民を幸せにする為に存在している、と言い切る尚隆がカッコイイです。
妖魔に育てられたせいで人に受け入れられない、異端の少年・更夜(こうや)も、彼は見捨てません。
実現は難しくても、更夜と養い親が幸せに暮らせる世界……それを目指して、尚隆達はこれからも進み続けるのでしょう。
幸せとは、良い王とは。色々なことを考えつつ、最後は希望を持てる物語です。