小説『新選組始末記』

『新選組始末記』は昭和3年に子母沢寛によって書かれた小説で、当時は賊軍の殺人集団として見られていた新選組を長期間の取材を元に描かれています。

この本は新選組のかつてのイメージを覆しただけでなく、今では「新選組の創作をするなら必読の本」とさえ言われています。

さて、私はこの本をとある古書店で入手し、新選組への興味が湧いていたのもあってゆっくりでも良いから読もうと思っていました。

古書の持つ古い本の独特のにおいも、私にとっては新鮮な香りでした。

しかし、読み始めて私は驚かされました。

まず、新選組に実際に関わった方々の遺談を始め、史料なども豊富に使った情報量は圧倒的でした。

それは、読めば読むほど新選組が時代の変わり目という激動の中で必死にもがき、ある者は志半ばで散り、ある者は市井に身を移して第2の人生を歩み、様々な生き様がしっかりと描かれていました。

時代の中で滅んだ徳川幕府に身を尽くした彼らの生き様は今でいう「負け組」なのかもしれませんが、私には彼らもまた討幕側の人々とは別の考えや誇りを持って生き、戦ったと思えました。

これは今まで創作の中でしかその姿を知らなかった新選組の、本当の生きざまでした。

そして、もう一つ驚かされたことがありました。

それは、この小説そのものの分量です。

大きさは文庫本サイズでページ数は500と確かに少々多く感じるのですが、実際に読むと字面の文字数の数倍はあるように感じました。

それもそのはず、この本は発行が1970年代で今の文庫本よりやや小さい字で印刷されており、実際の分量は今と同じではないのです。

結局、この本を読み始めたのは7月でしたが、読み終わるまでに5ヶ月もかかってしまいました。

もちろん、しばらく読まない期間も長かったのですが、それでも少しずる読んでいる内にこの本を読むことが一つの戦いのように感じられるようになりました。

もはやそれは自分との闘いなのか、それとも作者との意地の張り合いなのかもわからなくなりました。

しかし、「最後まで読みたい」という気持ちだけは持ち続けていました。

読んでも読んでも終わらないものの、残りのページの厚さは着実に減っているのはわかりました。

そして、この本を読み終わったとき、私の中で一つの戦いがおわりました。

その感情が達成感なのか、解放感なのか、はたまた別のものか私には未だにわかりませんが、少なくとも新選組の隊士たちの姿は深く心に刻み込まれました。