「見知らぬ海へ」隆慶一郎

20年以上前に刊行された隆慶一郎作の時代小説です。
戦国時代の末期に水軍の船長(ふなおさ)として生きた向井兵庫正綱の生涯を描いた作品です。
城を抜け出して釣りを楽しんでいる間に城を敵に襲われ、水軍の長であった父と義兄が殺されます。
生き残ったのは自分とわずかの部下ばかり。魚釣り侍と揶揄されながらも、向井水軍を立て直し次々と難敵を打ち破っていく様は痛快です。
力が正義の戦国時代にあって、海の男としての矜持と誇りを心の芯に据えて生きる姿に胸打たれます。
特に合戦でも命を懸けて信念を貫き、敵からも讃嘆されるほどの漢気を見せます。武田や徳川に仕えますが海の男としての信念を曲げることはなく、命を懸けてでも自分の信じる道を進みます。
会社の言いなりになりがちなサラリーマンの心に響く作品です。
惜しむらくは、第1部ともいえる部分が終わり更に心躍る展開が始まるぞ、という所で作者が急逝し未完となってしまったことです。
文庫版では巻末の評論に作者隆慶一郎が残した後の展開に関するメモの内容が記されていますが、イギリスやポルトガルなど海外の情勢とも絡み合い向井兵庫正綱の激動の活躍はまだまだ続くはずでした。それが読めないことが惜しくてたまりません。