ステキな余韻の残る「漁港の肉子ちゃん」

でっぷり太っていて、どこまでも人の良い母、肉子ちゃんとちょっぴりおませな子供キクりん、そんな母娘が漁港の田舎町に流れ着くところから物語は始まります。

肉子ちゃんはこの田舎町に流れ着くまでに散々男に騙され、それを娘のキクりんはちょっぴり苦々しく思っています。でもその一方で騙されても騙されてもめげない肉子ちゃんの強さを羨ましくも思っており、そんなキクりんの複雑に揺れ動く感情が、のどかな田舎町とあいまって情緒たっぷりに描かれています。

実際、田舎町の状況描写は見事で、漁港に暮らしたことのない私でさえ、目の前にその状況がまざまざと思い浮かぶようでした。

それもこれもすべての状況がキクりんの目を通して描かれているからです。何度も男に騙され、全国を流れ流れた末にこんな田舎町にたどり着いてしまった母の肉子ちゃんに複雑な気持ちを抱きつつ、大人の世界と子供の世界を行きつ戻りつしながら、揺れ動くキクりんの心情は時に胸を締め付けられます。子供の世界もなかなか大変なんです。でも肉子ちゃんはそんなキクりんの気持ちを知ってか知らずか、毎日たくさん食べ、ガハハと笑い、大きないびきをかいて、本当に憎たらしいほど能天気に過ごしています。

でもどこか憎めないんですよね。こんなお母さんがいたら、子供は苦労するだろうなと思うのですが、その反面ある種理想の母親像のような気もするし、難しいところです。

そうしてラストはそれまで当たり前だと思っていたある日常が覆されるのですが、その驚きが過ぎ去った後は、ステキな余韻が残ります。